
1.自動車整備分野業界の背景
自動車は、日本の社会インフラ、そして経済活動の基盤として欠かせない存在です。しかし、その安全な運行を支える自動車整備業界は、深刻な人手不足という課題に直面しています。
人手不足の原因は大きく2つ考えられます。
1つ目は、若者の「なり手不足」です。少子化に加え、若者の車離れや職業観の多様化により、整備士を目指す若者が減少傾向にあります。
2つ目は、技術の高度化です。ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、先進運転支援システム(ADAS)の普及により、整備士には高度な知識が求められ、人材需要が変化しています。
このような問題から国内の自動車整備士のなり手が不足しており、即戦力となる特定技能外国人の活躍が強く期待されています。
2.特定技能「自動車整備」にてできる業務
特定技能外国人は主として、日常点検整備、定期点検整備、特定整備又は特定整備に付随する業務に従事する必要があります。
具体的には、それぞれ以下の業務に従事することになります。
①日常点検整備
自動車の基本的な機能や安全性を日常的に確認する業務です。ブレーキ液やエンジンオイル、冷却水の量の確認、タイヤの損傷状態の確認、エンジン、ブレーキの状態の確認などと、それに伴う点検整備が含まれます。
②定期点検整備
日本の法律で定められた基準に基づき、一定期間ごとに行う詳細な点検・整備です。いわゆる「車検」や「法定12ヶ月点検」などがこれにあたります。ステアリング装置、ブレーキ装置、走行装置などと、それに伴う点検整備が含まれます。
③特定整備又は特定整備に付随する業務
最も専門性の高い業務で、原動機、動力伝達装置、走行装置などのいずれか(重要保安部品)の自動車の走行や安全に直結する重要な装置を取り外して行う整備や改造を指します。
また、これに付随する業務として、電子制御装置の整備や板金塗装といった業務も含まれます。
また、特定技能2号の人材は、上記のような業務を自分で行うだけでなく、周りのスタッフにやり方を教えたり、指導したりする役割も求められています。
④その他業務環境の条件
自動車整備分野では、特定技能の他に技能実習による外国人の受け入れも可能ですが、技能実習と特定技能では、業務環境の条件が若干異なります。
技能実習では対象となる事業所の要件について、
・地方運輸局長から認証を受けた自動車特定整備事業場(対象とする装置の種類が限定されていない)における作業である必要がある
・対象とする自動車の種類が二輪自動車のみの自動車特定作業場は除く
とされていますが、特定技能であればこれらの条件に抵触する作業所でも特定技能外国人に業務を依頼することができます。
3.特定技能「自動車整備」の取得方法・要件
①特定技能1号の要件
自動車整備分野の特定技能1号を取得するには、以下の技能水準と日本語能力水準の要件を満たす必要があります。
1. 技能水準
以下のいずれかに合格する必要があります。
・自動車整備分野特定技能1号評価試験
・自動車整備士技能検定試験3級
2. 日本語能力水準
以下のいずれかに合格する必要があります。
・国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
・日本語能力試験(JLPT)(N4以上)
そのほか、「日本語教育の参照枠」のA2相当以上の水準と認められる証明ができれば、日本語水準は満たします。
3.技能実習制度からの移行について
自動車整備分野については、技能実習からの移行も可能です。
移行の場合には技能実習「自動車整備職種、自動車整備作業」の第2号技能実習を良好に終了したものについては、特定技能1号に必要な上記の「技能試験」と「日本語能力試験」の両方が免除されます。
②特定技能2号の要件
自動車整備分野の特定技能2号を取得するには、以下の技能水準と実務経験の要件を満たす必要があります。
1. 技能水準
以下のいずれかに合格する必要があります。
・自動車整備分野特定技能2号評価試験
・自動車整備士技能検定2級
2. 実務経験
道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第78条第1項に基づく地方運輸局長の認証を受けた事業場(認証工場)において3年以上の実務経験が必要です。
この場合の実務経験とは分解、点検、調整等の整備作業のことで、以下の作業が該当します。
・ 道路運送車両法施行規則(昭和26年運輸省令第74号)第3条に規定する特定整備に係る作業
・ 電子制御装置の整備、板金塗装等の特定整備に付随する整備作業
・ キャブレータ、インジェクション・ポンプ等の主要な装置の点検、調整等の整備作業
・ 自動車の装置、主要部品等の交換を行う整備作業
・ 自動車の装置、主要部品等に係る点検、調整等の整備作業
・ 上記に掲げるものと同等の自動車の点検、調整等の整備作業
4.特定技能外国人を受け入れるための企業側の要件
特定技能外国人を受け入れるためには、企業も以下の要件をすべて満たす必要があります。
1. 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第78条第1項に基づき地方運輸局長から認証を受けた事業場を有すること。
2. 国土交通省が設置する自動車整備分野に係る特定技能外国人の受入れに関する協議会の構成員であること。
3. 前号の協議会に対し、必要な協力を行うこと。
4. 国土交通省が行う調査又は指導に対し、必要な協力を行うこと。
5. 登録支援機関に適合1号特定技能外国人支援計画の全部の実施を委託する場合にあっては、次のいずれにも該当する登録支援機関に委託することとしていること。
a. 前3号のいずれにも該当すること。
b. 1級又は2級の自動車整備士の技能検定(道路運送車両法第55条第1項の技能検定をいう。)に合格した者又は自動車整備士の養成施設(同条第3項に規定する養成施設をいう。)において5年以上の指導に係る実務の経験を有する者が置かれていること。
6. 特定技能外国人からの求めに応じ、当該特定技能外国人の当該機関における自動車整備分野に係る実務経験を証する書類を交付すること。
5.自動車整備分野を扱う場合の登録支援機関における注意点
自動車整備分野を扱う登録支援機関は、支援責任者、支援担当者その他外国人の支援を行う者として、以下の要件を満たす人材が必要になります。
1. 自動車整備士1級又は2級の資格を有する者
2. 自動車整備士の養成施設において5年以上の指導に係る実務の経験を有する者
このうち②自動車整備士の養成施設における指導に係る実務経験者については、実際に従事した自動車整備士の養成施設の名称を明示することも求められています。
特定技能「自動車整備」の分野についてはこれからますますニーズの高まりが予想されますが、自動車整備を扱う場合にはこれらの要件を満たしたうえで、支援業務の提案を行うよう注意が必要です。
6.登録支援機関運営におけるポイント
登録支援機関を健全に運営していくためにも、以下のポイントを押さえて運営を進める必要があります。
①要件の理解
登録支援機関の運営は、入管法や労働法といった法令の遵守が絶対条件です。これらの法律で定められた支援計画の作成、3ヶ月に1回以上の定期面談、各種届出などの義務を正しく理解する必要があります。加えて、頻繁に行われる法改正の情報にも的確に対応していくことが、機関としての信頼の基盤となります。
②業種・国籍特性の理解
法令遵守に加え、支援の質を高めるには「現場」と「人」への深い理解が不可欠です。就労を支援する業種ごとの労働環境や専門用語、慣習を理解することで、実情に即した支援ができます。また、外国人材の出身国による文化や宗教、価値観の違いを尊重し、一人ひとりに寄り添った支援を行うことは、誤解やストレスによる早期離職を防ぎます。このような業種・国籍への理解を怠らないことで、外国人人材の定着を促すことができるでしょう。
③専門家との連携
支援業務は在留資格の手続きから労務管理、生活相談、トラブル対応まで多岐にわたります。これら全てを登録支援機関で抱え込む必要はありません。在留煩雑な在留資格申請は行政書士、複雑な労務管理や社会保険手続きは社会保険労務士といったように、外部の専門家と積極的に連携することをおすすめします。専門家とのネットワークの構築は、リスクを管理し、より質の高い支援に集中するための戦略的な一手です。
6.登録支援機関運営のお悩みは大房行政書士法人までご相談ください
当事務所は、行政書士としての法務の専門性に加え、登録支援機関「株式会社KMT」の運営を通じて得た豊富な実務経験を兼ね備えております。法的な手続きと外国人材支援の現場、その両方に精通しているからこそ、常に最新かつ実践的な情報に基づいた質の高いアドバイスを提供することが可能です。
登録支援機関の運営に関するお悩みは、ぜひ当事務所にご相談ください。